浮見堂は本当にちいさい頃からの遊び場だった。それは気仙沼港の入江の最も深いところに位置しており、気仙沼と大島を結ぶ連絡船からよく見える。岩場の上に立てられた建造物だ。目的や由来はわからなかったが遊び場としてはどうでもよかった。自宅から100メートルくらいの近場である。
当時はネウ(アイナメ)と呼んでいた魚を釣りに行った。赤いビニールテープを巻いた錘に餌をつけずに釣るのであるが、この仕掛けを当時ブラクリと呼んでいた。なぜかネウは赤い色が好きらしく餌もついていないのによくつれた。釣ったネウをその場でさばき、さらにそれを餌として釣ることもあった。浮見堂のたっているところは海の上なのだが、潮が引くと岩場に降りていくことができる。海藻で岩場は滑りやすいがおかまいなしにいつも降りていった。そこにはいろいろな貝がいた。ヤドカリもいた。
浮見堂には回廊の節目に直径30cmほどのストゥーパのようなものがついている。ある日ぐらぐらしているのを見つけた。木製なので接合部分が腐っていたようだ。揺らしてみたらはずれた。大きなタマネギのようだ。数秒後それはなぜか海に浮かんでいた。まさに海の藻屑である。どうやら少年は飽きっぽいようだ。(*)
(*)良い子は絶対まねしないこと!
浮見堂は断崖の下の岩場の上に立っているのだが、その崖の上には神社がある。正式名は知らないがオシンメーさんと呼んでいた。境内にあがる階段はとても急だ。その階段を上った中腹あたりに大きな岩があり、この岩は階段と同じような角度で表面はなめらかなので滑り台として遊んでいた。

その昔、この階段の横は鬱蒼とした茂みになっていて、恐いことにすぐに崖になっていた。落ちれば岩場の突き出した海である、まず助からないと言っていいだろう。当時この崖に一本の獣道のようなものがあって、階段を使わずに浮見堂から境内まで登っていくことができた。しかし、最近行ってみるとその獣道はコンクリートの階段と手すりまでついていた。昔のワイルドさがなくなって残念ではあるが、あんな獣道をよじ登っていけたのは命知らずの子供だったからだろう。
まだ獣道だった頃、いつだったか弟と遊びに行ったとき、あまりに急なその道から弟は足を滑らせ、岩場がむき出しの海へ落ちていった・・・。間一髪、友人が弟の手をつかみ、かろうじて3メートルほど落下したところでとどまることができた。もし友人がそこで手をつかめなかったら、彼もストゥーパのように海の藻屑と化していたはずだ。
気仙沼に来たら浮見堂を見に来てください。隠れた名所です。散歩がてら立ち寄るもよし、夜はライトアップされているので夜景もなかなかです。